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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)272号 判決

控訴人(原告) 高田貞吉

被控訴人(被告) 国

原審 東京地方昭和三一年(行)第七二号(例集一〇巻一号14参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、昭和二十三年一月二十三日附百五十八号連合国財産返還命令書を以て大蔵大臣が控訴人に対し原判決添付物件目録記載の物件についてなした返還命令が無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否は原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、更に審究した結果、次の点を補足するほか、原判決の理由に説示するところと同一の理由によつて、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判定したので、ここに原判決の理由の説示を引用する。

控訴人は、昭和三十四年六月十日付準備書面において、(一)本件昭和二十一年勅令第二九四号は、昭和二十六年一月二十二日政令第六号連合国財産の返還等に関する政令に承継せられ、平和克復後も法律としての効力を有しているものであつて、同政令附則第四項は、同政令施行前に旧勅令第二条第一項の規定に基いて為された措置については、旧勅令がなお効力を有することを規定している。これによつてみるも、たとえば昭和二十三年八月十九日政令第二三八号「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令」に基く処分が憲法外の権力によるものと認められるのとは異り、本件勅令に基く行政処分は、平和克復の前後を問わず、憲法の領域内の行為であることが明らかであるから、これを超憲法的な効力を有するものとした原判決の判断は誤であると論ずるけれども、右勅令乃至政令が、平和条約発効後も効力を有し、従てその後においてこれに基いてなされた行政処分は、憲法に違反しない範囲内においてのみ効力を有することになるのは当然であるがこのことは、平和条約発効前になされた行政処分についても同様に解さねばならないとする理由とはならない。次に控訴人は、(二)本件返還命令は、何等の補償を提供することなく、本訴物件の返還を命じたのであるから、この点においても憲法第二十九条に違反すると論ずるけれども、本件行政処分が超憲法的な権力の発動に基くもので、憲法に違反する場合にもなお有効と認めざるを得ないことは、さきに引用した原判決の理由において詳細に説明するところである。控訴人は、更に(三)ヘーグの陸戦の法規慣例に関する法則第四十六条は、原判決の説示するように、戦闘中の占領に限り適用されるものでなく、休戦協定成立後の占領にも適用せられるべきものである又私有財産尊重の原則は原判決の説明するように変容せられたものではないと論ずる。この点に関する当裁裁判所の判断が原判決と同一であることは、さきに示したとおりであるが、なお仮に本件行政処分が、控訴人の論ずるように、国際法規乃至国際法上の原則に反するとしても、これにより直ちに本件行政処分が国内法上当然無効とは解することができない。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 薄根正男 村木達夫 元岡道雄)

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